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中小製造業の労働生産性向上|計算式を読み解き、現場の改善と人材育成につなげる実践方法

2019 8/19
ヒトと組織の育て方
2019年8月19日2026年10月15日
「労働生産性向上」が未来をたぐり寄せる!真の働き方改革とは?

皆さま、こんにちは。西本文雄です。「残業を減らそう」「もっと生産性を上げよう」。社長がそう話した翌日も、現場では工具を探し、図面の版を確かめ、ベテランさんの返事を待っている。もしそんな状態なら、先に変えたいのは掛け声より、仕事の進め方ではないでしょうか。皆さんが一生懸命に働いていることと、仕事が滑らかに流れることは、同じではないのです。

2019年の元記事では、労働生産性という経営の計器と、人材育成の関係を取り上げました。働く仲間が課題に気づき、方法を考え、試して確かめる。その力を会社の仕組みとして育てたい、という思いは今も変わりません。今回は五つの見出しを残しながら、計算式の読み方を整理し、5S活動を入口とする現場改善へつなげていきます。

最初に結論をお伝えします。労働生産性向上は、人を急がせることではありません。同じ時間からよりよい成果を生むために、仕事をしにくくしている原因を取り除き、工夫を仲間へ渡せるようにすることです。数字は人を順位づける札ではなく、会社と現場が次の手を考える計器として使いましょう。

「計算はできた。でも何から変えればいいの?」という方にも、明日確かめることを選べるように書きました。御社の一つの工程を思い浮かべながら、どうぞお付き合いくださいませ。

目次

益々高まる労働生産性の重要性

労働生産性を確かめる意味は、働く人の努力を点数にすることではありません。限られた人数と時間の中で、顧客へ届ける価値を守り、会社が人や設備へ使える余力をつくるためです。忙しいのに利益が残らない、休む人が出ると仕事が止まる。そんな困り事を、感覚だけで抱え込まないための入口になります。

「忙しい」と「価値を生んでいる」を分けて見る

例えば、同じ図面を何度も印刷し直しているとします。担当する人は真面目に確認していますし、間違った版で加工しないための大事な行動でもあります。でも、正しい図面がどこにあるか分からないままなら、その確認は明日も必要です。「確認をもっと早く」と言うより、最新版の保管場所と変更の伝え方をそろえた方が、仕事は進めやすくなりますよね。

私は、こうした場面で生産性という言葉を使いたいのです。働く人が力を使いたいのは、お客さまに必要な品質をつくること。その前後で探す、待つ、戻ることに時間を使っているなら、本人の頑張りを増やす前に、会社として直せるものがあります。現場の困り事を聞くことは、数字とは別の優しい話ではなく、数字を変える原因を探す仕事です。

財務の数字と現場の記録をつなぐ

会社全体では、付加価値や利益、使った人数・時間を見ます。一方、日々の現場で確認しやすいのは、探し物、段取り、手直し、納期待ちなどです。この二つの間に橋を架けないと、経営の会議では大きな数字を眺め、現場では片づけの写真を撮るだけになってしまいます。

例えば手直しが減ったなら、やり直しに使った時間や材料を確かめます。工具を探さなくなったなら、必要なときに誰でも取り出せるかを確かめます。その結果、納期に余裕ができたのか、別の工程の待ちが増えたのかまで見てみる。最初の工程だけが速くても、出荷までの流れが変わらなければ、会社の成果につながらない場合があります。

時間を減らすことと、価値を高めることを両方考える

日本生産性本部の「生産性とは」は、生産性を成果と投入の関係として整理し、物量で見る場合と付加価値で見る場合を示しています。売れる量を増やすだけでなく、選ばれる品質や対応をつくることも、御社が考えたい方向です。

現場で手直しを減らす工夫と、営業で提供価値を説明する工夫はつながっています。短納期への対応を約束するなら、特急の仕事が入ったときに何を入れ替え、どこまで追加費用を見積もるかも必要でしょう。現場だけに速さを求めず、受注条件や製品構成まで含めて考える。会社全体の仕事として扱ってこそ、働きやすさと継続して稼ぐ力を一緒に育てられると思います。

労働生産性とは?その計算式は?

労働生産性は、投入した労働に対して、どれだけの成果を生んだかを見る指標です。ただし、同じ名前でも計算式が違います。元記事で紹介した経営力向上計画とローカルベンチマークも、その一例です。式を覚える前に、何のために、どの範囲を測るのかを決めましょう。

分子と分母に何を入れたかを残す

基本の形は「成果÷労働投入量」です。成果には付加価値額や営業利益、現場であれば良品数などを使います。労働投入量は人数か、働いた時間の合計かで意味が変わります。付加価値額の求め方にも複数の定義がありますから、他社や別の資料と比較するときは式から確かめる必要があります。

見たいもの 計算式・考え方 使うときの注意
時間当たりの付加価値 付加価値額÷総労働時間 付加価値の算定方法と、時間に含める範囲を固定する
経営力向上計画で用いる労働生産性 (営業利益+人件費+減価償却費)÷労働投入量 人数または就業時間等の扱いは手引きと該当分野の指針を確認する
ローカルベンチマークの労働生産性 営業利益÷従業員数 簡易的な指標。人数の定義はシートの注記に従う
現場の時間当たりの良品数 良品数÷その作業に投入した総時間 同じ品種・品質・作業範囲で比べ、金額の指標と区別する

制度の式は、中小企業庁の経営力向上計画策定の手引き、経済産業省のローカルベンチマークのガイドブックで確認できます。同じ労働生産性という名前でも、数字をそのまま横へ並べないでください。

計算例で違いを確かめる

ここからは算式を理解するための仮定です。当社や顧客の実績でも、目標値でもありません。ある期間の営業利益が600万円、人件費が2,400万円、減価償却費が600万円、対象の従業員数が10人、総労働時間が18,000時間だったとします。例の中では、この三つの金額の合計を付加価値額として扱います。

合計は3,600万円です。これを10人で割ると一人当たり360万円、18,000時間で割ると時間当たり2,000円になります。一方、営業利益600万円を10人で割れば60万円です。360万円と60万円は、どちらかが計算間違いなのではなく、分子が違うのです。ここを混ぜると、説明を聞く現場も金融機関も困ってしまいます。

さらに、同じ3,600万円を15,000時間で生んだと仮定すれば、時間当たりは2,400円です。2,000円からの上昇率は20%になります。ただし、これは数字の関係を示しただけで、御社で時間を減らせば同じ成果が出るという予測ではありません。仕事の持ち越しや品質の低下がないことも必要ですし、空いた時間をそのまま現金の利益として数えることもできません。

比較する条件をそろえる

まず同じ期間、同じ対象、同じ算式で記録します。売上高と付加価値額を途中で入れ替えたり、ある月だけ応援者の時間を外したりすれば、比較の意味が変わります。生産量だけを数える場合も、作りやすい製品が多い月と難しい製品が多い月では事情が違います。受注の量、品種の構成、外注の使い方を横にメモしておきたいですね。

現場の作業時間では、実際に手を動かした時間だけを見る場合と、準備、確認、片づけまで含める場合があります。どちらの数字も使えますが、「何を含めたか」を明記し、都合に合わせて変えないことです。工程全体の改善を確かめたいなら、作業を別の人や工程へ移しただけで終わっていないかも確認します。

元記事では制度上の伸び率にも触れましたが、特定の率を、すべての中小企業に一律の義務として当てはめることはできません。申請に使う指標や目標は、中小企業庁の経営力向上支援から最新の手引きと該当分野の指針を確認してください。御社の改善の目標は、申請欄を埋めることと分けて、現状の困り事から考えたいものです。

労働生産性と人材育成との関係性は?

計算式だけを見ていると、人材育成に使う時間は分母を増やす負担に見えるかもしれません。しかし、一人にしかできない仕事をそのままにすれば、その人が休んだ日に困ります。今日の作業を終わらせることと、明日も仕事を続けられる状態をつくることを、会社として一緒に考える必要があります。

教え合う時間を、仕事の予定に入れる

若い人が初めて段取りを覚える日には、本人の時間だけでなく、一緒に確かめるベテランさんの時間も要ります。その時間を隠して「前月より遅くなった」と責めれば、誰も教える仕事を引き受けたくなくなりますよね。育成に使った時間と、通常の生産に使った時間を分かるように残し、何ができるようになったかを一緒に見たいのです。

例えば、工具を準備する、図面の変更点を確認する、加工条件を照合する、異常時に止めて相談する。一つの作業にも複数の判断があります。単に「この製品を作れる」と記録するより、どの判断を一人で行え、どこで確認が必要かを分けた方が、安心して任せられます。難しい作業を急に一人へ渡すことが、多能工化ではありません。

コツだけでなく、判断する理由を残す

ベテランさんが「この音なら止める」と判断するとき、言葉にしにくい感覚があるでしょう。私は、それを無理に一枚の手順書へ押し込めるより、まず一緒に現物を見て、何がいつもと違うかを尋ねたいと思います。確認する位置、見る順番、迷ったときの相談先が残れば、次に学ぶ人の助けになります。

記録は長文でなくても構いません。写真に確認点を一つ書く、正常な状態と注意する状態を並べる、作業後に分かりにくかった点を付け足す。それを実際に使った人が直せるようにします。作った資料の枚数より、その資料で仕事ができたかが大事です。安全や品質に関わる基準は、関係する人が確かめてから共有してください。

改善の題材を、人が育つ機会にする

5S活動の置き場づくりなら、使う人が困り事を出し、置く量や戻す位置を考え、使って確かめられます。「どちらの案がきれいか」だけで決めず、別の班でも迷わず使えるかを聞く。そのやり取りで、相手の仕事を考える力と、事実で説明する力が育ちます。答えを先に渡すだけでは得にくい学びです。

そのとき、提案した人を改善の全責任者にしないことも大切です。費用や他工程との調整は会社が引き受ける。本人には試す範囲を示し、確認日を決める。経営者がこうして支えれば、「言うと仕事が増えるだけ」という経験を減らせます。社員を元気にすることと、会社を元気にすることを、この小さな往復でつなげたいですね。

実績を本人へ返し、仲間へ渡す

うまくいった工夫は、誰が何に気づき、どう確かめたかまで共有しましょう。数字が上がったことだけを褒めると、条件が違う職場では使えません。試した条件と、使い続けるために直した点を伝えると、次の工夫の材料になります。途中でやめた案も、理由を残せば同じ遠回りを減らせます。

改善の記録は、社内ディスプレイや自社サイトで、継続して良くなる会社の姿を伝える材料にもなります。ただし、顧客名、図面、加工条件、働く人の写真は公開範囲の確認が必要です。見栄えのために数字を大きくするより、現場の一人ひとりの知恵が次へ受け継がれていることを、誠実に見せたいと思います。

労働生産性向上への方法・施策を考える

元記事では、設備投資とプロセス改善の二つを挙げました。この二つは今も大切な選択肢です。ただ、最初から機械の購入と現場の頑張りの二択にせず、どの仕事の流れを良くしたいかから始めましょう。使う道具も進める順番も、そこで変わってきます。

最初の一件は、工程全体を見て選ぶ

受注、図面確認、材料準備、加工、検査、出荷までを紙に並べてみてください。どこで仕事がたまり、誰が何を待ち、どこで戻っているでしょうか。機械が止まっているから能力が足りないと思っても、実は図面の確認待ちかもしれません。加工だけを速くしても、検査の前に仕掛品が増えるなら、別の対策が必要です。

現場の皆さんに「改善案は?」と尋ねる前に、「昨日、どこで仕事がしにくかったですか」と聞いてみましょう。答えが一つ出たら、いつ、何が、どれくらい起きたかを確かめます。記録する期間は課題に合わせ、普段と異なる注文や応援が入った日も残します。精密な記録を全工程へ一斉に広げるより、一件を確実に扱える形から始める方が続けやすいと思います。

5S活動で使える状態をそろえる

探し物、戻し忘れ、品番の取り違えが起きるなら、5S活動が入口になります。必要な物を選び、置き場と量を決め、異常に気づける状態をつくる。写真を撮った日の美しさだけでなく、忙しい日も使い続けられるかを確認します。現場の人にしか分からない使い勝手を、ここで出してもらいたいですね。

例えば置き場を変えたら、近くなった距離だけで判断しません。通路を狭くしていないか、重い物を無理な姿勢で持たないか、別の人も取り出せるか、補充の人が迷わないか。速くなった作業の隣で危険や負担が増えていないかまで確かめます。安全や品質の確認を省いて得た速さを、改善の成果にしてはいけません。

QC活動で原因を確かめ、IE手法で流れを測る

同じ手直しが繰り返されるなら、発生した品種、条件、工程を集め、仲間で原因を考えるQC活動が役立ちます。最初から人の不注意と決めず、表示、治具、手順、情報の届き方に違いがないかを見る。対策を試した後は、別の日や別の担当でも続くかを確認します。

待ちや動き、仕事の配分が課題なら、作業を観察して時間や流れを整理するIE手法を選べます。ただし、一番速い人の動作を全員へ求めるだけの使い方にはしたくありません。準備、運搬、確認まで含めて作業を捉え、ムリがなく再現できる方法を考えるために使います。5S活動、QC活動、IE手法を順番に消化することより、目の前の課題へ合う方法を選ぶことが大切です。

設備投資は、減らす仕事と受け止める仕事を確かめる

現状を見た結果、手作業では安全や能力の限界があるなら、設備投資は有力な選択肢です。そのときはカタログの加工時間だけでなく、段取り、材料の投入、取り出し、洗浄、保全、検査まで含めて考えます。予定した品種と数量で使えるか、前後工程が受け止められるか、停止した場合にどうするかも確かめたいところです。

導入費だけで判断せず、運用や消耗品、習熟のための時間も含めて見積もります。補助金があるから買うのではなく、解きたい課題があり、そのための設備を選ぶ。使う制度によって条件は変わりますから、採択や支援が受けられる前提で効果を語らないことも必要です。投資の判断に迷うほど、まず現場の条件を具体的にする意味があります。

AIは、御社の課題を解く小さな道具へ使う

例えば、改善記録の写真とメモを整理する、同じ種類の困り事を探す、作業実績から確認したい傾向を抽出する。AIは、そうした具体的な支援ツールをつくる手段として考えられます。AIを入れること自体を成果にせず、記録や判断にかかるどの手間を減らすかを先に決めます。

最初は、記録に番号と日付を付け、元の内容へ戻れるようにしましょう。AIがまとめた結果をそのまま品質の判断や実績報告にせず、人が元の記録と照合する。顧客情報や図面を外部サービスへ入れる場合は、契約と社内の情報の扱いを確認します。入力内容や確認の負担が増えるなら、道具の方を小さく直してよいのです。

試した結果を返し、使い続ける方法まで決める

最初の活動では、課題、試すこと、確認する事実、確認日、中心になって動く人を一枚にまとめます。実行後は「よくなった気がする」で終えず、同じ条件で比べられる記録を取り、働く人の使い勝手も聞きます。数量や時間だけでなく、手直し、安全、残業、仕掛品のどれかが悪化していないかも見ます。

結果を見て、続ける、直す、戻すを決め、関係する仲間へ知らせる。続けるなら置き場や手順を更新し、確認する担当も決める。ここまでが一件の改善です。活動の件数だけを増やすより、現場が「前に話したことはこうなった」と分かる一件を積み上げましょう。その積み重ねが、会社の改善力になります。

労働生産性向上の具体事例

ここでは、厚生労働省が公表した製造業の事例を二つ紹介します。当社の支援実績ではありませんし、同じ活動をすれば同じ成果が出るという意味でもありません。御社へ持ち帰るなら、どの考え方と仕組みが参考になるかを、一緒に見ていきましょう。

山田製作所:3S活動と工程の見える化をつなぐ

2022年1月24日掲載の山田製作所の事例では、整理・整頓・清掃の3S活動を土台に、手づくりの工程管理ボードを活用しています。進捗を共有し、仕事の割り振りや若手の育成にも取り組んだ経緯が紹介されています。詳しくは厚生労働省の公表事例をご覧ください。

私が御社で考えていただきたいのは、ボードの形をそっくりまねることではありません。物を置く場所が整い、どの仕事がどこまで進んだかが分かり、誰がどこを担えるかが見える。この三つがつながれば、仕事の引き渡しについて話しやすくなります。写真で現場がきれいになったことを確認した後に、仕事の流れまで確かめたいのです。

御社の最初の一歩なら、いま待っている仕事を一件選び、待っている理由を工程の欄へ書くことからでもよいでしょう。材料待ちなのか、図面の確認待ちなのか、特定の人の判断待ちなのか。事情が分かれば、次に声をかける相手と、会社が決めることを分けられます。表示のための表示にせず、次の判断へ使える形にしたいですね。

ミズタニバルブ工業:改善活動と学びを結びつける

2026年3月27日掲載のミズタニバルブ工業の事例では、部門ごとの継続的な改善、結果の共有、デジタル技術を学ぶ取組が紹介されています。総務・経理の作業自動化や営業のICT活用も扱われています。出典は厚生労働省の公表事例です。

この事例を読んで私が考えるのは、工場の中だけを見ないことです。製造の記録を集計する仕事、受注内容を現場へ渡す仕事が滞れば、機械を速くしても待ちは残ります。現場の困り事から必要な知識を学び、身につけたものを実際の仕事へ使う。その往復を、御社の改善の時間の中につくれないでしょうか。

大きな自動化から始めなくても、二重入力を一つ見つけ、同じ内容を何のために書いているか確かめられます。目的が同じならまとめる余地がありますし、品質の確認など別の目的があるなら残す必要があるかもしれません。道具を選ぶ前に理由を聞けば、現場の知恵も失わずに済みます。

他社の成果は、御社の条件に置き直す

公表事例には、その会社の製品、取引先、人の構成、活動の経緯があります。成果の数字だけを御社の目標へ移すと、現場は何を変えればよいのか分からなくなります。参考にする仕組みを一つ選び、自社で違う条件を挙げ、試す範囲を決めましょう。良いと思った方法でも、まず使う人の声を聞いてからです。

そして、掲載事例は掲載時点の記録です。会社の現在の状態を保証するものではありません。御社で生まれた工夫も、後から条件と結果を確かめられる形で残してください。他社の実績に感心して終わるより、御社の一件の改善へつなげられたら、それが事例を読む価値だと思います。

よくある質問

労働生産性を使い始めると、計算以上に、結果をどう読むかで迷うものです。最後に、取り組む前に確かめたい疑問を整理します。御社の数字と仕事の実態を、両方見ながら考えてください。

残業を減らせば、労働生産性は上がりますか?

同じ成果をより短い総労働時間で生めば、時間当たりの指標は上がります。ただし、仕事を翌月へ持ち越したり、別の人へ移したりしただけなら、会社全体の改善とは限りません。検査や片づけを省き、後で手直しが増える場合もあります。減った時間だけでなく、出荷、品質、仕掛品、実際に働いた時間を確かめましょう。残業を減らす理由は、数字をよく見せるためではなく、仕事と暮らしを続けられる状態をつくるためです。

受注が減った月の数字は、改善の失敗なのでしょうか?

受注量が減ると、設備や人を使える余力があっても、成果の金額は下がることがあります。それだけで現場の工夫が失敗したとは言えません。会社全体の金額指標と、同じ製品を扱った作業の時間や手直しの記録を分けて確かめます。受注の量や製品構成の変化を横に置けば、営業や受注条件で考えることと、現場で直せることを話し合いやすくなります。

人材育成で一時的に時間が増えてもよいのでしょうか?

必要な学びの時間まで一律に削ると、仕事が特定の人へ集まり続けます。何を一人でできるようにしたいか、誰と何を確かめるか、いつ振り返るかを決め、そのための時間を予定に入れましょう。通常作業の速さだけでなく、任せられる範囲が広がったか、確認の抜けが減ったかも見ます。育成中だからと無期限に曖昧にせず、途中で進め方を見直せることが大切です。

AIツールを入れれば、記録や集計は楽になりますか?

同じ形式の記録を集めたり、決まった項目を整理したりする仕事は、道具で支えられる可能性があります。ただし、入力が複雑なら現場の負担は増えます。まず記録の目的と必要な項目を絞り、元の情報へ戻って確認できるようにします。AIの回答を成果の実績として扱わず、集計の範囲や計算を人が確かめる。導入後にどの手間が増減したかまで見て判断してください。

生産性が上がった分を、そのまま賃上げへ回せますか?

時間当たりの数字が上がったことと、会社が使える現金が増えたことは同じではありません。受注や価格、材料費、外注費、運用費、資金の支払いも関係します。空いた時間を次の受注や育成へ使い、継続して付加価値を生める状態にすることが大事です。そのうえで、会社の見通しと成果の分け方を経営者が考え、働く仲間へ説明したいですね。

他社より低い数字なら、現場の能力が低いのでしょうか?

そう決めることはできません。算式、対象の人、内製と外注の範囲、製品の難しさ、設備や受注条件が違うからです。まずは御社自身の同じ条件での変化を見ましょう。他社との比較は違いの理由を尋ねる材料に使い、個人の能力評価へ直接置き換えない。低い数字を責めるより、どの条件を会社として変えられるかを考える方が、次の行動につながります。

まとめ:数字を現場の一歩へつなげる

労働生産性は、経営の状態を確かめる計器です。けれど、計器の数字だけを見ても、現場の仕事は変わりません。何を成果として数え、どの人数や時間で割ったかをそろえ、その結果を探し物、待ち、手直しといった仕事の事実へ戻して考える。この往復が大切だと思います。

働く仲間と一緒に課題を見つけ、試し、結果を返す。その中で判断の理由や仕事のコツを残せれば、改善と人材育成は別々の活動ではなくなります。社員を元気にする。会社を元気にする。その思いを、日々の仕事の仕組みで形にしていきたいですね。

まずは、今日の現場で「何を探したか」「何を待ったか」「どこをやり直したか」を一つ聞いてみてください。そして、試すことと次に確かめる日を決めましょう。大きな目標を掲げる前に、一件の改善を使える形にして、仲間へ結果を知らせる。その経験が、次の一歩を支えます。

株式会社事成すは、5S活動を入口とする支援サービスとして、活動の記録・共有、現場で働く皆さまへの研修、継続できる体制づくりを考えています。御社の生産性の数字を、現場のどの課題へつなげればよいか迷ったときは、お問い合わせから今の困り事をお聞かせください。御社の仲間が持つ知恵を、一緒に次の工夫へつなげていきましょう。

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この記事を書いた人

西本 文雄(にしもと ふみお)のアバター 西本 文雄(にしもと ふみお)

西本文雄|株式会社事成す代表取締役・中小企業診断士。製造現場、生産管理、購買の実務経験を生かし、中小企業の経営と現場をつなぐ支援に取り組む。5S活動を入口に、社員が自ら考え、チームで改善を続けられるしくみづくりを重視。現場で働く人の知恵と経営者の想いを結び、品質向上や生産性向上につながる実践的な情報を発信しています。難しい理論より、日々の仕事で試せる工夫を大切にし、現場目線でわかりやすく伝えます。

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