インフレ時代の中小企業の唯一の打開策~2026年は「価格交渉力」と「生産性向上力」を強化せよ~
新年あけましておめでとうございます。2026年の幕開けにあたり、本年も皆様の経営の一助となる情報発信に努めてまいります。
さて、昨今の情勢を見ると、高市政権の誕生により長らく続いた「大企業優遇」の潮目が変わり、成長戦略の明確化によって我々中小企業にとっても、ビジネスがやりやすい環境が整いつつあるように見えます。
しかしその一方で、忘れてはならない事実があります。それは、経済政策の中心が依然として「従業員の賃上げ」に置かれているという点です。つまり国は、今後も物価上昇を容認し、それに追随する形で給料もインフレ化させる「好循環」を目指しているのです。
理屈は分かります。ですが、現実に目を向ければ、我々中小企業の現場に「賃上げの余力」など残されているでしょうか? 原材料費の高騰に加え、これ以上の人件費アップ。多くの経営者が「言われなくても分かっているが、原資がない」と頭を抱えているのが偽らざる本音でしょう。
一体、この局面をどう乗り切ればいいのか――。
今回はそんな葛藤の中にいる経営者へ、2026年を生き抜くための確実な「ひとつの方向性」を提示したいと思います。
読み終えるまでの数分間、ぜひお付き合いください。
現状の経営環境:見せかけの好景気と国民生活のリアル
ニュースを見れば株価は堅調、企業の内部留保は過去最高と言われています。しかし、我々中小企業の現場において、その「景気の良さ」を肌感覚として実感できている経営者がどれだけいるでしょうか?
数字上の好景気と、実際に我々を取り巻く過酷な経済環境。まずはこの「乖離(ギャップ)」を冷静に見つめ直すことから始めなければなりません。なぜなら、このギャップこそが、今あなたの会社に突きつけられている「賃上げ圧力」の正体だからです。
現在の経済状況:定着したインフレと疲弊する家計
まず直視すべきは、円安基調の長期化と不安定な世界情勢により、日本国内においても「インフレ環境が完全に定着した」という事実です。
一昔前であれば、コスト増は一時的なものとして耐えれば過ぎ去る嵐でしたが、今は違います。エネルギー、原材料、物流費、あらゆるモノの値段が上がり続けています。
一方で、大企業の株価が上がり、国全体の経済指標が発展しているように見えたとしても、それは一部の輸出企業や投資家の話です。大多数の国民、つまり御社の従業員の生活はどうでしょうか?
スーパーに並ぶ食料品から光熱費に至るまで、生活コストの急激な高騰により、実質的な生活水準は切り下げられています。一生懸命働いているのに生活が苦しい――。この国民(従業員)の疲弊感は限界に達しており、それがそのまま企業への「もっと給料を上げてくれ」という切実な声に変わっているのです。
政治・政策の動き:新政権による「賃上げ」への強力なコミット
こうした国民の窮状を受け、誕生した高市政権もまた、経済対策の一丁目一番地に「賃上げ」を据えています。
これまでの政権以上に、成長戦略と分配の好循環を強く意識しており、「物価上昇に負けない賃上げ」の実現に向けた並々ならぬ決意が見て取れます。これは裏を返せば、企業に対して「インフレ時代に合わせた賃金体系への移行」を強く求めていることに他なりません。
もはや「不景気だから」「赤字だから」という言い訳で賃上げを回避することが、社会的に許されにくい空気が醸成されつつあります。中小企業であっても、この国の大きな政策方針である「賃上げ要求」のプレッシャーからは、誰も逃れることができないのです。
政府が支援する「生産性向上」の限界
「賃上げをするためには、原資が必要だ。だから生産性を上げよう」。
これは経済学の教科書としては100点満点の正解です。しかし、日々油にまみれ、機械の音の中で戦っている我々中小製造業の現場において、この言葉はどれほどの現実味を持っているでしょうか?
「生産性向上」という言葉が、現場の実態を無視した魔法の杖のように扱われている現状。ここではあえて、その限界についてメスを入れたいと思います。
政策と現場のギャップ
国の方針は極めてシンプルです。「賃上げ原資を確保するために、設備投資やDXを行い、生産性を高めなさい。そのために補助金(ものづくり補助金やIT導入補助金など)も用意しました」というスタンスです。
もちろん、こうした支援策自体はありがたいものですし、活用すべきです。しかし、政府の描くシナリオには、「現場の蓄積」という視点が欠けているように思えてなりません。「ボタンを押せば生産性が上がる」わけでもなければ、「補助金をもらえば翌日から利益が出る」わけでもありません。
国が求めるスピード感と、現場が改善を積み上げて成果を出すまでのタイムラグ。このギャップこそが、多くの経営者を苦しめている要因の一つです。
現場の本音(乾いた雑巾はもう絞れない)
そもそも、日本の製造業、特に中小企業はこの数十年、何をしていたでしょうか?
円高に苦しみ、海外勢とのコスト競争に晒される中で、徹底的な「カイゼン」を繰り返してきました。ムダを削ぎ落とし、効率を追求し、まさに「乾いた雑巾を絞る」ような努力を重ねて今の利益を捻出しているのです。
はっきり申し上げます。
「やれる企業」は、言われなくてもとっくに自力でやっています。
一方で、資金力や人材不足で「やれない企業」は、単に補助金というカンフル剤を打っただけで、V字回復できるほど甘い経営環境ではありません。
これ以上、現場に対して「もっと効率化しろ」「もっと削れ」と求めることは、何を引き起こすでしょうか? それは、ギリギリで保たれている「品質の低下」や、真面目な従業員の「疲弊(バーンアウト)」です。賃上げをして社員を幸せにするはずが、その原資を作るために社員を追い詰めてしまっては本末転倒です。
今の我々に必要なのは、乾いた雑巾をさらに絞る握力ではなく、新しい水を注ぐこと――つまり、外から収益を持ってくる力なのです。
インフレ下の最優先経営課題は「価格交渉力」
「乾いた雑巾」をこれ以上絞れないのであれば、答えは一つしかありません。外から新しい水を注ぎ入れること、つまり「売上単価の引き上げ」です。
これまで多くの日本企業は、価格据え置きのまま内部努力で耐え忍ぶことを美徳としてきました。しかし、インフレ時代においてその美徳は、残念ながら「座して死を待つ」ことと同義です。今、経営者が最優先で取り組むべきは、工場の中の改善ではなく、外に向けた「価格交渉力」の強化なのです。
収益改善への最短ルート
なぜ、生産性向上よりも価格交渉なのか。理由は単純明快です。「即効性」と「インパクト」が桁違いだからです。
生産性向上によるコスト削減は、半年、1年とかけて地道に積み上げ、ようやく数パーセントの利益を生み出すものです。しかし、昨今の原材料費やエネルギー価格の高騰は、その数パーセントの努力を一瞬で飲み込んでしまいます。これでは、穴の空いたバケツに必死で水を汲んでいるようなものです。
一方で、「価格改定」はどうでしょうか。適正な値上げが実現すれば、その瞬間からダイレクトに粗利が増え、収益構造が改善します。
インフレという荒波の中で、会社と従業員を守るための防波堤を築くには、悠長な内部改善を待っている時間はありません。最も速く、最も確実に収益を改善する手段が「価格交渉」であるという事実を、まずは数字として直視してください。
マインドセットの転換
「そうは言っても、値上げをお願いするのは心苦しい…」。そう感じる経営者の方も多いでしょう。しかし、2026年に向けて、そのマインドセット(思考様式)を根本から変える必要があります。
まっとうな事業構造を維持し、従業員に十分な賃金を払い、次世代への投資を行う。これらを継続するために、コスト上昇分を価格に転嫁することは、もはや「お願い」でも「我儘」でもありません。経営者としての「義務」であり、当たり前に取り組まなければならない「通常業務」なのです。
国も賃上げを経済対策の柱に据えている以上、価格転嫁はもはや一企業の生存戦略を超え、我が国経済の循環を維持するための「国策」の一端を担っていると言っても過言ではありません。
「ウチのような下請けには価格交渉なんて必要ない」と思っている経営者は、今の日本には一人も存在しないと思っています。
営業活動や製造活動と同じように、「価格交渉」を重要業務と位置づけ、その優先順位を劇的に引き上げる。その覚悟が決まった瞬間から、会社の未来は変わり始めます。
経営者そのもののマインドセットの転換。それこそがまず、必要なことだと考えます。
【BtoB】国のお膳立てを活用した交渉戦略
「親会社に値上げなんて言ったら、仕事がなくなる」。
そんな昭和・平成の常識は、2026年の今、完全に過去のものとなりました。なぜなら、国が本腰を入れて「下請けいじめ」を許さない監視体制を完成させたからです。
BtoBにおいては、個人の交渉力に頼るのではなく、この「国が作ったお膳立て(制度)」をフル活用することが勝利への鉄則です。
環境の変化:国は本気で「監視」している
政府は「価格転嫁」が進まないことが日本経済の停滞(賃上げ不全)の主犯であると断定し、かつてない強固な支援体制を敷いています。
1. パートナーシップ構築宣言
すでに多くの大手・中堅企業が宣言を出していますが、これは単なるポーズではありません。「下請け企業との共存共栄」を経営トップの名で約束させたことに意味があります。宣言企業が不当な据え置きを行えば、宣言取り消し等のペナルティがあり、発注側もリスクを背負っています。
2. 労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針
画期的だったのがこの指針です。これまで「自助努力でなんとかしろ」と突き返されていた「労務費(賃上げ分)」について、発注者は協議に応じなければならないというルールが明確化されました。
3. 価格交渉ハンドブック(価格交渉ノウハウ・事例集)
中小企業庁が発行するこのガイドブック(ハンドブック)は、最強の武器です。「どのような文面で申し入れるか」「相手がこう反論してきたらどう返すか」といった具体的な問答集が網羅されており、これを手元に置くだけで交渉の質が変わります。
4. 取引適正化法(旧:下請法の抜本改正)
従来の下請法をさらに強化・発展させた法的枠組み(いわゆる取適法)の運用により、買いたたきに対する規制は厳格化されました。「知らなかった」では済まされない法的強制力が、我々の背中を押しています。
5. 公正取引委員会の予算6倍増
これが最も分かりやすい「国の本気度」です。下請法運用のための予算規模が以前の約6倍に膨れ上がり、Gメン(下請Gメン)による調査・監視体制が大幅に強化されています。発注側にとって、不誠実な対応は即座に公取委の指導対象になるという緊張感が高まっています。
攻め方:感情ではなく「制度」で戦う
環境は整いました。あとは経営者がどう切り出すかです。
「賃上げ原資」は正当な交渉理由になる
かつては「原材料が上がったので…」しか通用しませんでしたが、今は違います。「従業員の賃上げを行うため、加工賃を見直したい」と堂々と伝えてください。政府の指針がそれを推奨しており、拒否することは発注側にとってもコンプライアンス上のリスクとなります。
感情論は捨て、データを武器にする
「苦しいから上げてくれ」という泣き落としは通用しませんし、対等なビジネスではありません。
- 「最低賃金がこれだけ上昇している」
- 「電気代の推移がこうなっている」
- 「政府の指針(労務費転嫁指針)に基づき、試算するとこうなる」このように、国の指針と客観的データをテーブルに乗せ、淡々と、しかし毅然と交渉を進めてください。相手は「感情」には反論できても、「国のルールと数字」には反論できません。
【BtoC】マーケティング視点で生き残る戦略
国の監視の目が光るBtoBとは異なり、一般消費者を相手にするBtoC(およびBtoBtoC)の世界は、ある意味でより残酷でシビアな戦場です。ここには「買わなければならない義務」も「下請法」も存在しません。
価格に見合わないと判断されれば、顧客は黙って去っていくだけ。この恐怖心こそが、多くの経営者が値上げに踏み切れない最大の要因でしょう。
BtoBとの違い:強制力ではなく「関係性」
BtoBの価格交渉が、法律や指針という「公的な強制力」をバックボーンにするのに対し、BtoCの価格改定を左右するのは「顧客との関係性(ロイヤリティ)」と「競合他社の動向」です。
「原材料が上がったから」という供給側の論理だけでは、消費者は納得しません。「隣の店の方が安い」という比較対象があれば、容赦なくそちらに流れます。
つまり、BtoCにおける価格改定は、単なる数字の書き換えではなく、「顧客にもう一度、自社を選んでもらうためのプレゼンテーション」そのものなのです。
攻め方:単なる値上げではなく「価値の再定義」を
では、客離れを防ぎながら価格転嫁するにはどうすればよいか。答えは、価格と一緒に「価値」もアップデートして伝えることです。
「ごめんなさい値上げ」はもうやめる
「苦渋の決断」「心苦しいですが」といった謝罪型の告知をよく見かけますが、これは「値上げ=悪」という印象を顧客に植え付けるだけです。
必要なのは「価値の再定義」です。
「従来通りの商品を高く売る」のではなく、「品質を守り、より良いサービスを提供し続けるために適正価格にする」というポジティブな姿勢への転換です。
「顧客メリット」のストーリーを語る
消費者がお金を払うのは、商品そのものだけでなく、その背後にある「ストーリー」や「未来」に対してです。
- × 悪い例:「電気代と材料費が高騰したので、100円値上げします。」(企業の都合)
- ○ 良い例:「創業以来の味と品質を一切落とさず、これからも皆様に美味しい笑顔をお届けするために、価格を見直しました。その分、スタッフの笑顔も増やしてより居心地の良いお店にします。」(顧客のメリット)
このように、「なぜその価格なのか」という理由を、「あなた(顧客)にとってどんな良いことがあるか」という文脈に変換して伝えてください。
ファン(ロイヤル顧客)であればあるほど、その企業の「従業員が疲弊している姿」や「品質が落ちていく姿」は見たくありません。「ずっと良い店でいてほしいから、この価格なら応援するよ」と言ってもらえる関係性を築くことこそが、インフレ時代のBtoC戦略のゴールです。
一方で「生産性向上力」も同時に強化すべし
「価格交渉さえうまくいけば、もう現場は楽をしていいのか?」
答えはNOです。価格交渉で外から収益(水)を入れることは急務ですが、それを受け止めるバケツ(会社組織)に穴が空いていては意味がありません。
価格転嫁によって一息つける今だからこそ、これまでのような「個人の頑張りや根性に頼る改善」から脱却し、「組織的かつ科学的な生産性向上」へとステージを上げる絶好のチャンスです。高めた価格に見合う価値を提供し続けるために、今一度、足元の現場力を磨き直す必要があります。
なんと言っても我が社の収益性は組織的に高める
これからの生産性向上は、単にコストを削るための活動ではありません。特定の熟練工に依存するのではなく、「組織として利益を生み出し続ける仕組み」を作ることこそが、2026年を勝ち抜く鍵となります。
5S活動でチーム(組織)による改善体制を導入
まず着手すべきは、組織活動の基本である5S=整理・整頓・清掃・清潔・習慣(しつけ)の再徹底です。
多くの経営者が「うちはやっている」と言いますが、単なる「美化運動(掃除)」で終わっていないでしょうか?
5Sの本質は、「改善をチームで進めるための職場環境作り」であり、全員でルールを決めて守るという「チームビルディング」の基礎訓練です。個人のスキルに依存せず、誰がやってもムリ・ムダなく作業ができる強い組織は、徹底した5Sという土台(プラットフォーム)の上にしか建ちません。
QC活動で顧客価値と改善体制の関係性を理解
次に必要なのが、QC(品質管理)活動を通じた「顧客視点」のインストールです。
ただ闇雲に「速く作れ」と号令をかけるだけでは、品質事故や不良品を招き、結果として顧客の信頼を失います。
「自分たちの改善活動が、お客様への提供価値(品質・納期)にどう直結しているか」を現場の人間が理解すること。そして、価格交渉でお客様に約束した品質を、現場主導で守り抜くサイクルを作る。これができて初めて、値上げが「正当な対価」として受け入れられ続けます。
IE手法で生産性向上力の爆上げと組織的で継続的な取り組み体制の整備
そして仕上げは、IE(Industrial Engineering:経営工学)手法による科学的アプローチです。
「気合を入れろ」「もっと急げ」という精神論による生産性向上は、昭和で終わりにしましょう。
工程分析、稼働分析、標準時間の策定など、科学的なメスを入れてプロセスそのものを再設計する。これにより、数パーセントの改善ではなく、数十パーセント単位での「生産性向上力の爆上げ」が可能になります。
重要なのは、これを一過性のイベントにせず、組織として継続的に回し続ける「仕組み(体制)」として定着させることです。
まとめ:客観的な視点を持つために「専門家」を活用せよ
ここまで、2026年を勝ち抜くための「価格交渉力」と「生産性向上力」についてお伝えしてきました。頭では理解できても、いざ実行に移そうとすると足がすくんでしまう。それは経営者として無理もないことです。
最後に、なぜこの変革を自社だけで完結させるのが難しいのか、そしてどうすれば突破できるのかをお伝えします。
自社だけでは判断が難しい理由
最大の敵は、市場環境でも競合他社でもなく、実は経営者自身の心の中にある「恐怖心」と「思い込み」です。
「値上げをしたら、長年の取引先が離れてしまうのではないか」「ウチのレベルで値上げなんておこがましい」…。こうした感情バイアスがかかると、自社の製品や技術を過小評価してしまい、適正な価格判断ができなくなります。
また、生産性向上の要となる「5S活動」についても同様です。自分たちだけでやると、どうしても甘えが出たり、単なる「片付け」で終わったりしがちです。真に利益を生むための「本質的な5S」を学び、組織的な改善基盤として定着させるには、正しい理論の学習と外部からの規律が必要です。
専門家の活用:第三者の視点が「自信」に変わる
だからこそ、我々のような専門家(中小企業診断士など)を積極的に活用してください。
専門家を入れる最大のメリットは、「客観性」です。
社内の人間には当たり前すぎて見えていない「御社の強み」や「適正な市場価値」を、第三者の視点で冷静に評価・発掘することができます。BtoBであれBtoCであれ、価格の見直しはもはや避けて通れない経営課題です。
「感情」で悩む時間を減らし、「論理」と「データ」で武装する。
専門家というパートナーと共に、客観的な根拠を積み上げることこそが、自信を持って交渉のテーブルに着くための第一歩です。
インフレ時代を嘆くのではなく、これを機に「稼げる体質」へと生まれ変わる。2026年、まずは自社の価格と価値を見つめ直す作戦会議から始めましょう。

